静岡県沼津市にある沼津駅周辺では、現在高架化工事が進められています。それに併せて貨物ターミナルと車両基地も移設されます。
本記事では沼津駅高架化工事の取材に当たり、高架化工事事業の概要をまとめます。
沼津駅の概要
読み方 | ぬまづ(NUMAZU) |
所在地 | 静岡県沼津市 |
駅番号 | CA03 |
運営事業者 | JR東海・JR貨物 |
所属路線 | 東海道本線・御殿場線 |
キロ程 | 126.2km(東京駅起点) |
乗降人員 | 37007人/日(2023年) |
沼津駅は、駅名の通り、静岡県東部地域の主要都市である沼津市の代表駅です。東海道本線と御殿場線の2路線が乗り入れており、JR東海の旅客駅とJR貨物の貨物駅が同居しています。
駅の開業は1889年2月1日と、19世紀まで遡ります。現在は旅客駅と貨物ターミナル、そして車両基地のみ存在する駅ですが、昔は機関車の車両基地である沼津機関区や貨車操車場も併設され、さらに駅から沼津港線という貨物支線も分岐していました。
沼津駅が鉄道交通の重要拠点に成長した背景には、元東海道本線である御殿場線の急勾配が関係しています。国府津~御殿場~沼津間の急勾配を突破するため、勾配区間の端点となる沼津駅では機関車の付け替えが行われ、上り列車は必ず沼津駅に停車していました。
1934年に丹那トンネル経由の新線が開業した後も電気機関車と蒸気機関車の付け替えを沼津駅で行っていたため、1949年に静岡駅まで直流電化するまで東海道本線を走行する全ての列車が沼津駅に停車していました。
このような背景から鉄道を運営するのに必要な重要設備が沼津駅に集積するようになりました。東海道新幹線が開業後は三島駅に新幹線の駅が設けられましたが、駿東地区の在来線の鉄道交通の拠点は現在も沼津駅が担っています。
2025年4月時点において、沼津駅には基本的に普通列車しか停車しません。寝台特急サンライズ瀬戸・出雲は現在も東海道本線を走行し沼津駅にも停車しますが、その他の長距離輸送列車は全て東海道新幹線に移行・格上げされました。
普通列車は熱海~浜松間という非常に長い区間を直通運転していますが、基本的には地域輸送が主となっています。また御殿場線から三島駅に直通する列車も存在しています。
乗降人員は2023年度実績で37007人/日となっており、駿東地区にある駅の中では、三島駅に次いで2番目に利用者が多いです。ただ、この数字は改札を通過した人数のため、東海道線と御殿場線との乗り換え人員を含めると三島駅より利用者が多いかもしれません。
事業概要
本事業では沼津駅を中心に、東海道本線は前後4.1kmを、御殿場線は沼津駅を起点に1.8km高架化します。併せて駅構内に併設されている貨物ターミナルと車両基地は別の場所に移転されます。
貨物ターミナルと車両基地の移転、そして沼津駅の高架化が完了した場合、事業区間内にある13か所の踏切が除却されます。また、鉄道線をアンダーパスする3つのガードが4車線の平面道路に改良されます。
3つのガードのうち、あまねガードと三つ目ガードについては既に前後の区間が4車線化しています。しかし、鉄道と交差する関係で2車線となっている沼津市中心部では深刻な交通渋滞が度々発生しており、またガード部では線形不良による事故や大雨時の冠水による通行止めが発生しています。
今回の事業が完了すれば、これらの問題が全て解消されます。鉄道線によって分断されている南北の市街地が一体化されるとともに、沼津市中心部における道路交通の改善も進みます。
また、事業の完了によって駅周辺には大量の空き地が発生します。さらに高架化によって高架下の空間も発生することから、これらを活用した街づくりが行われる予定です。
沼津駅の旅客駅の高架化は、貨物ターミナルと車両基地の移転が行われてからの工事となります。移転によって高架橋を建設するための用地を現在線の北側に確保します。
北側の用地を確保出来たら、そこに東海道本線の上り本線の高架橋を建設します。高架橋が完成したら、上り線を高架に切り替えます。
東海道本線の上り線の切り替えが完了したら、御殿場線の発着線を一時的に東海道本線の上り線に切り替えます。これにより、御殿場線の高架橋を建設する用地を確保します。
用地の確保が出来たら、御殿場線のホームを撤去し、御殿場線の高架橋を建設します。高架橋が完成したら、御殿場線を高架橋に切り替えます。
御殿場線の切り替えが完了したら、ホームを撤去して東海道本線の下り線の高架橋を建設します。高架橋が完成したら東海道本線の下り線を高架橋に切り替え、鉄道線の高架化が完了します。
完成後の沼津駅は、現行と同様に3面6線となる予定ですが、線路設備は旅客が乗降するための設備以外は全て消滅します。また御殿場線の線路・ホームが東海道本線の上下線の間に挟まる構造となることで、現行よりも御殿場線と東海道本線が直通運転しやすくなります。
なお、東海道本線の上下本線が何番線になるかは現時点では不明です。一般的には一番両側の発着線となる1・6番線が本線になるのがセオリーですが、2・5番線が上下本線になる可能性もあります。
貨物ターミナルの移転。
先述の通り、沼津駅の高架化に併せて貨物ターミナルと車両基地の移転が行われます。現在貨物駅は旅客駅より西方に約1.3kmの所にありますが、新貨物ターミナルは現貨物ターミナルよりもさらに約7km西方の沼津市原地区で建設されます。
新しく建設される貨物ターミナルは、着発線荷役方式という現行の方式とは異なる荷役方式が採用されます。これにより荷役作業の時間が大幅に短縮され、輸送の効率化が図られます。
着発線荷役方式とは、これまで荷役では貨物列車が到着してから発車するまで「解放・入替・連結」という作業が必要だったのに対し、貨物列車が発着する着発線で直接荷役を行うことで、これらの作業を省略する方式です。
既に神戸貨物ターミナル等で採用されている方式ですが、これが沼津市の貨物ターミナルでも採用されることになります。
施工手順としては、まず東海道本線より南側の土地約11.8haを確保し、貨物ターミナルの南側を整備します。この際、線路を跨ぐ貨物ターミナルへの進入路を整備し、北側を整備するための工事車両のルートを確保します。
その後、東海道本線の上下線とも線路を南側に移設し、貨物ターミナルの北側の整備エリアを確保します。線路切り替え後に貨物ターミナルの北側の整備を開始します。
北側の整備が完了し、コンテナホームの整備が完了したら、東海道本線の上り線のみ北側へ再度切り替えます。そして、仮上り本線の跡地を含め電気設備や着発線等の貨物ターミナルの機能を整備したら、工事完了・全面供用開始となります。
供用開始後は現貨物ターミナルを廃止し、跡地は再開発されます。貨物ターミナル移設後は沼津駅の高架化工事が行われるため、しばらくは工事ヤードとして活用されるでしょう。
ちなみに、本ターミナルの整備は沼津貨物駅の移転が主目的であり、富士駅に併設されている貨物駅との機能統合まで行われるかは不明です。もし富士駅の貨物駅が機能統合により廃止された場合は、跡地を活用して身延線を東方に延伸することが可能になります。
なお、この貨物ターミナルの建設に当たっては、建設予定地の地権者らの反対運動に遭い、中々工事着工にこじつけることが出来ませんでした。沼津駅の高架化が構想されてから着工に至るまでに40年近い時間がかかったのはこれが原因です。
沼津駅を高架化するに当たって、まず貨物ターミナルの移設が必要だったため、貨物ターミナル建設に必要な用地を確保できなければその他の工事も進められません。それが、2021年に行政代執行を行ったことで、ようやく必要な土地を全て確保することが叶いました。
車両基地の移転
現在の沼津駅の車両基地は沼津駅の東側にあります。現在の車両基地は入出庫に当たって最低1回方向転換が必要であり、東京方面から来た列車は2回方向転換が必要になっています。
この問題を改善するため、沼津駅の高架化に併せて、車両基地を沼津駅より西方約2kmの地点に移設されます。これにより、熱海方面・御殿場方面に入出庫する場合は方向転換が不要となります。
施工手順としては、沼津市片浜地区の東海道本線の現在線より直ぐ北側に約6.2haを確保します。貨物ターミナルの整備開始より少し遅れて整備を開始し、整備が完了次第供用を開始します。
貨物基地構内の配線は、沼津市が公開している資料を見る限り、整備新幹線の車両基地で採用されている配線とおおよそ同じ配線となるようです。留置線より東側に入替線が整備されるかは不明です。
また、車両基地の供用開始が東海道本線の上り線の高架化よりも先なのか後なのかも不明です。もし上り線の高架化よりも車両基地の供用開始の方が先の場合、しばらくの間沼津駅の西側で車両基地との入出庫線と上り本線が平面で交差することになります。
さらに、沼津市が公開している東海道本線の縦断図によると、新車両基地と旅客駅を繋ぐ連絡線は本線が地平に下りるより少し手前の新中川付近で地平に下りることになっています。新中川と車両基地の間には踏切が数か所あり、事業完了後は通行できなくなる可能性があります。
なお、車両基地のほぼ中央には、車両基地と本線をアンダーパスするためのガードが整備される予定となっています。この道路は片浜西沢田線という名称がつけられており、工事完了後は明電舎の事業所よりも西側に国道1号線と千本街道・旧東海道を繋ぐ広い道路が整備されます。
まとめ
JR沼津駅の高架化事業は、2023年度からスタートした高架化事業です。全体の事業完了は2040年度と非常に長期に渡りますが、全ての工程が安全かつ安定して進捗して進むことを心から祈ります。
参考文献
wikipedia(沼津駅)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%BC%E6%B4%A5%E9%A7%85
東海旅客鉄道株式会社移動等円滑化取組報告書
https://company.jr-central.co.jp/others/barrier-free/_pdf/2023-02.pdf
沼津駅付近連続立体交差事業
https://www.city.numazu.shizuoka.jp/shisei/keikaku/station/shiryo/pamphlet/koka.pdf
静岡県
https://www.pref.shizuoka.jp/machizukuri/dobokujimusho/numazudoboku/1002167/index.html
沼津市
https://www.city.numazu.shizuoka.jp/shisei/keikaku/station/index.htm
国土交通省国土地理院
https://www.gsi.go.jp/top.html
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